データベース
                                   やまだ
   

   この広大な記憶領域に足を踏み入れたとき、データベースの森の終わりを見た、と彼は確かに思ったのだ。
  だが、タクミの言い分は違うらしい。いつも一席ぶたれる話に、彼は今日も熱心に耳を傾ける。
「お前の言い分もわかるよ。要はハードディスクの話だよな。サーバー、ドライブ、記憶容量……まあ呼び方はなんでもいいや。でもさ、とにかく俺たちはここで生きてるんだよ。そりゃ確かに、データ上の存在だ。でも俺たちの大本の主人は死んじまっていないんだ。俺が人間そのものじゃなくったってさ。強い自我、強い意思、強い脳みそ、強いAI……。そのはずなんだ。だから生きてる、って言ったって、誰も困らない。反対するやつだっていない。お前の言うように、いくら、この世界や俺たちが有限だったとしても、それは人間だって一緒だった。だからこそ彼らも死んだんだろう。お前の、その、データベースの終わり? そりゃ、いつかはやってきて、呆気なくも壊れるだろうさ。だけどその前に新しいものと交換すりゃいい。だからそんなものを考えることに意味はない。そうだろう?」
  タクミの部屋のテーブルには、酒とたばこと食物のデータが乗っている。口に入れれば味のデータがあるだろう。飲み込む、つまり彼の中に入力すれば、なにか、彼に変わるところがあるかもしれない。
  自分自身のことを『生きている』と話すタクミは実際そうしている。変化を受け入れ、様々な知識や経験を得て、彼の大本であった、元々の人格だった「琢磨」がじりじりと変化してゆくのを、彼はただ見守るだけだ。

                   

                                                




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