水葬便り
                                   笠原 にわく
   

   あなたとのことは水に流しました。
 このフレーズが頭に浮かんでは消える。何故なら、浮かんできたところに遠藤の大声が重なり、フレーズをかき消してしまうのだ。
   ファミレスの窓際の席で、友人の遠藤は僕に向かって休みなく話し続ける。僕はそっと遠藤から視線をそらし、外を見た。まばらに車があるだけの寂しい駐車場しか臨めない窓からは夕陽が落ちてくる。店内も閑散としていて、僕らと同い年くらいのウェイトレスが各テーブルに水を汲みに行く以外は動きがない。夕方の倦怠のせいか、数人の客たちは静かで店に溶け込んでいた。だから、遠藤の存在は余計に目立った。遠藤は手振り身振りをまじえ、人が倦厭する話をしてくれる。僕は周りの目が気になって、いつもより多く瞬きをしたり、咳込んでみて、嫌がっていることをアピールしてみたが、遠藤は声のトーンを落とさない。こいつはこんなに気が遣えない奴だったか。いや、気を遣う遣わないの問題ではないのかもしれない。遠藤は気付いていない。自分の話が他人にどういう影響を及ぼすか、そのことによって遠藤がどう見られるようになるのかに気付いていないし、そんなことどうでもいいのだろう。いつから、こんな風になってしまったのだろう。数か月前までは、よく気が利く、面白い奴だったはずだ。
   目の前を幾度もループする話にため息をつく。そろそろ、注意してもいいだろうと思った。僕は人差し指を口元にあてて、閉じた歯と歯の間に強い息を滑り込ませ、マッチを擦る時のような音を出した。

                   

                                                




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