憂き眠り


   
   俺と吉雄は双子だ。俺たちは二卵生双生児なのだが、顔が似ているのでよく一卵性と間違われる。これで、性格や特技なども似ていればよかったが、俺たちは顔以外に似た所がない。吉雄は数学が得意で、バスケ部に所属し、性格が明るくよく笑う。俺は国語が得意で、愛想がなく、一人静かに過ごすのが好きな人間だった。どちらが良い悪いと言う訳ではないが、周りからの評価は俺と吉雄とでは大きく違う。どうしたって、国語が得意な奴よりも数学が得意な奴の方が重宝される。「えー、お前数学得意じゃないの? 吉雄と双子なのに?」と心ないことを言われることが多々あった。だが、俺は無神経な事を言う奴に対して怒りを感じはしたが、吉雄に対して劣等感を感じることはなかった。なぜなら、あいつはあいつ、俺は俺、そういう教育を小さい頃から徹底的にほどこされてきたから、すぐに思考がバランスをとり始める。あいつは愛想がよすぎて好きでもない人間と無理して付き合っているところがある。俺は一人が楽だし、嫌いなやつとは付き合わない。それぞれ、いいところも悪いところもあって、それでいいんだという考えにどうしたって落ち着くのが俺たちだ。
 高校からの帰り、家に帰っても暇を持て余すだけの俺は、古本屋の店先にだされた埃のかぶったワゴンを物色していた。在庫一掃セールと銘打たれた、一冊五十円の値段で売られている本たちの背表紙を指でなぞり、何か読みたいものはないかと探す。在庫処分というだけあって、聞いたこともないタイトルの小説が並び、時々旅行記や随筆集が混じっている。とくにこれといったものもなく、本を選ぶ事よりも背表紙をなぞる指先の感触に神経が集中してきた頃、首のあたりに衝撃があった。突然の事に思わず体がはねあがり、一瞬息ができなくなった。誰にも聞こえなかっただろう小さいうめき声をあげ、それをきっかけに俺は呼吸をふたたびはじめる。カツアゲか暴漢か、何がぶつかってきたのかを確認するため、おそるおそる首を横に向けた。
「雪雄ちゃん、今帰り?」
 間の抜けた声が聞こえる。横を向いた俺と目があったのは吉雄だった                                                

                                                




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